テレワーク整備は未来への投資 これから働き方はどうなる?
新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、政府はテレワークの推奨を打ち出した。これを受けて、日本マイクロソフト株式会社が事務局を務める「Empowered Japan実行委員会」はテレワーク啓蒙のための緊急無料ウェブセミナーを3月から実施。
今回はEmpowered JAPAN実行委員会委員長の松村茂さんと日本マイクロソフトEmpowered JAPAN事務局長の宮崎翔太さんにお話を伺った。
【プロフィール】
松村 茂
Empowered JAPAN実行委員長
東北芸術工科大学 デザイン工学部企画構想学科 教授(工学博士)
日本テレワーク学会 特別顧問
ICTが発達しモビリティ度が高まったテレワーク社会のデザインを探求する。テレワーク、パブリックワークスペースの整備・普及の推進、地域活性化に取り組む。
テレワーク月間実行委員長、テレワーク推進フォーラム副会長、一般社団法人テレワーク協会アドバイザー、日本テレワーク学会特別顧問等。テレワークを推進する政府の委員を歴任。
宮崎 翔太
日本マイクロソフト株式会社 政策渉外・法務本部 地方創生担当部長
クウェート生まれ。衆議院議員事務所インターンを経て2006年、日本マイクロソフトに新卒として入社。
中堅中小企業向け営業、常務補佐、大手販売パートナー協業担当、自治体・医療機関・社会福祉法人・公益法人向け事業開発 兼 内勤営業チームの統括責任者を経て現職。現在はテクノロジー活用を通じた働き方改革や人材育成、地方創生、女性活躍を含むダイバーシティ&インクルージョン、医療サービスの効率化、自動運転等、複数のプロジェクトを企画・推進し、日本政府・自治体・医療機関・教育機関・業界団体等の 有識者に向けた政策渉外活動を担当。Microsoft Empowered JAPAN Project及びMicrosoft AI & Innovation Center佐賀の責任者。
テレワークで社会の活力が高まる
Empowered Japanはどんなプロジェクトなんですか?
松村さん:「いつでもどこでも誰でも、働き、学べる世の中へ」をコンセプトに、2018年に発足しました。全国各地でテレワーク啓蒙イベントを行ったり、企業や個人向けにテレワーク研修を行ったりしています。
パートナーや政府・自治体と協力し、「テレワーク・働き方改革」の普及、「学び直し」の機会創出などの活動を通じた地方創生に挑戦しています。例えば2019年には佐賀県の佐賀市、千葉県流山市、埼玉県吉川市、愛知県岡崎市、山形県酒田市で、女性がテレワークのスキルを学んで実践する取り組みに挑戦しました。
「人生 100 年時代」と言われるいま、自分らしい人生を全うするための働き方や学び方の選択が多種多様になっています。 そんな中、全国には育児や介護、年齢や障がいによって 働く機会や学ぶ機会が十分に得られていない人たちもいます。テクノロジーと働き方改革の力で、すべての個人や組織が持つ可能性を最大限に引き出すためのサポートをしています。
テレワークというと、子育てや介護のために在宅で働く人を対象に導入されてきた経緯があります。でも、最近は休暇先で仕事をするなど、働く場所や時間に捕らわれない新しいテレワークの形も出ています。
働く場所に制限がなくなると、移動時間が節約できて効率的に仕事ができるし、結果的に働き方改革につながります。空いた時間で子どもと遊んだり、本を読んで勉強したり、自分のための時間が増えるので自由度も上がる。結果的に生産性が上がり、社会の活力も高まってくる。それが「Empowered JAPAN」になるんです。
一方で、育児や介護などで自宅を離れられず、働きたくても働けていない方や地方の中小企業へのテレワーク活用促進のアプローチは、まだまだ進んでいないのが現状です。これからテレワークを始めてみたい個人や企業をサポートするために、日本マイクロソフトには事務局という形で支援していただいています。
松村さんと日本マイクロソフトがタッグを組んだ経緯を教えてください。
宮崎さん:日本マイクロソフトの働き方に関する考えと松村先生のご活動はすごく考えが近かったんです。日本マイクロソフトが働き方改革で目指しているのは、生産性の向上と多様性の活用です。社会全体の、テレワークをはじめとした働き方改革への理解を進め、また本プロジェクトについては当初「テレワーク×女性活躍×地方創生」というコンセプトで、場所にとらわれない働き方の可能性を模索することからスタートしました。
例えば、パートナーの転勤についていくために仕事を辞めてしまった優秀な女性が、転勤地に行ったときに自分のスキルを活かせる仕事が通勤圏内にない。結婚出産を経て復職した女性が、時短勤務になって収入が減ってしまう。また、一方で企業は人手不足に悩み、黒字でも倒産の危機に直面するケースが増えてきました。このミスマッチは、社会にとっての大きな損失だと思います。
こうした問題を解決し、自分のスキルを活かして全国どこでも働ける機会を創出するために、自治体や多くの協力団体と連携し、実証プロジェクトを展開しています。具体的には個人向けのテレワーカー育成研修、および、離れた場所にいる個人でも雇用できるように企業向けのテレワーク導入研修を無料で提供する取り組みです。千葉県流山市に暮らしながら、佐賀県佐賀市の会社で働く、などの事例も生まれています。テレワーク導入には手段であるITだけではなく、企業や個人のマインドセットなど、あらゆる要素が大切です。例えばセキュリティを不安視する人も当然いらっしゃいますが、不安だからやらないではなく、セキュリティのリスクを正しく理解し、しっかりと対策した上で、テレワークを導入していく。「やることのリスク」だけではなく、「やらないリスク」も考える。このための研修プログラムを引き続き設計・改善しており、現在はオンライン化も進めています。
今後は女性だけではなく、若者や高齢者、障がい者、医療従事者、教職員や行政職員など、あらゆる対象に広げられる研修プログラムの策定を目指し、テレワーク導入のアプローチを進めていきたいと考えております。働くことは自分の人生の大きな要素を占めます。だからこそ、キャリアを捨てる選択肢ではなく、どうしたらキャリアとライフステージを両立できるのか、いろんな企業や自治体と連携していきたいです。
松村さん:そもそもテレワークは「地方と都会」とか「若者・女性・障害者」などの今ある様々な区別になじまないんです。テレワークは時間も場所も働き方も、みんなそれぞれ自分のスタイルを手に入れることができる。育児や介護をしながら、大学に通いながら、リゾートにいながら。そんな自分にあった様々な働き方を選べて、それをみんなが許容・容認できるのがテレワークの素晴らしさなんです。
テレワーク導入のノウハウを全国に
今回、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、緊急ウェブセミナーを実施する目的と意義を教えていただけますか?
松村さん:私たちが培ってきたどこでも、いつでも、誰もが働くことのできるテレワーク導入のノウハウを、全国の皆様に広く提供するためです。セミナーでの情報提供がテレワーク導入を推進し、新型コロナウイルスの一日も早い終息を願うとともに、さらに活力ある日本を作っていく一つの足がかりになればと思っています。
企業の方にお願いしたいのは、コロナ対応のための投資という位置づけでなく、企業が未来に適応するための投資と捉えていただくこと。今回の投資が、従業員や企業の活力を高めることになります。テレワークという働き方が働く人や企業を元気にする、それが日本の元気につながると思います。ぜひこの機会にテレワークを進めてほしいです。
マイクロソフトとしては、テレワーク導入のためのITツールの提供をどう進めていくのでしょうか?
宮崎さん:IT企業として、クラウドをはじめとした安心かつ利便性の高いコラボレーションツールやデバイス、AIなどのテクノロジーを提供していく使命があり、今回はMicrosoft Teamsの6カ月無償提供や無償問い合わせ窓口などの支援策を打ち出しています。ただ、ツールはあくまでも手段の一つであり、目的ではありません。また、ツールを使うのは人なので、上手に使いこなすためには包括的なスキル習得のための学び直しも必要となり、それには業界や業種を超えた連携が必要です。
その知識を効率的に提供するため、これまでのプロジェクトで得られたテレワークや働き方改革に関する知見を「心構え・マインドセット」「ITツール・環境」「制度(労務管理、補助金、社内ルール・マニュアル)」「実践事例」「行政・医療・教育機関向け」というカテゴリに分け、多くの講師や団体に協力を要請しました。
テレワークを導入する時の課題はIT、金銭面、人事、労務管理など企業によって様々です。また、教育機関が行う遠隔授業には違ったスキルも求められます。マイクロソフトだけでは解決できないこれらの課題を、各分野のスペシャリストとパートナーシップを組んで現状を乗り越える必要があり、今回のウェブセミナーは企画から実行まで1.5週間程度で立ち上げましたが、多くの方々にご協力をいただけていることを感謝しています。
また、この先には、東京圏への人口一極集中の改善や、来る介護離職時代に備えるため、「いつでもどこでも働き、学べる世の中」を作っていくという目標があります。今回は、まずはコロナウィルスの感染拡大を防ぐためのテレワークや遠隔授業等に関する情報発信として、ウェブセミナーを事前登録不要にて無償提供しており、24時間以内に動画の公開も行っております。また、参加者だけではなく、講師や事務局も物理的に集まらない完全ウェブセミナーを実施しており、テレワークの率先垂範を目指しています。
テレワークを導入する上で大事な心構えはありますか?
宮崎さん:まずは、企業が働く人を、働く人が会社を、双方向で信頼することが大事だと思います。例えば在宅勤務だとサボるんじゃないか、逆に働きすぎるんじゃないか、企業は心配すると思うんです。でも、今回みたいな緊急事態では、とにかく信頼が重要ですし、ITツールを効果的に活用していただき、それに付随する労務管理などの各種情報を正しく理解いただければ、きっと不安も解消されると思いますし、挑戦したからこそ見えてくることもあると思います。
松村さん:自由に働くということは、成果を求められるということです。仕事の依頼を受けた時点でアウトプットの質を保証するということ。それは出た成果を評価する「成果主義」の先にある、結果を依頼時に約束する「請負契約」に近いものなんです。ワーカーには自分たちは信頼に答えないといけないという覚悟も必要だと思います。それに、上司等への途中報告など極めて高度なコミュニケーションも求められます。しかし、緊急事態である今、テレワークを導入してもそういった評価を行うための仕組みづくりが出来ていないと思います。こんな時だからこそ信頼関係も大切だと思いますね。
これからは目的に合わせて働く場所や時間を選ぶ時代へ
これからの時代、働き方はどのように変化していくと思いますか?
松村さん:信頼が生まれると、一人ひとり顔が見えるようになってくると思います。今後副業を解禁する企業も増えて、終身雇用の時代が終わって、退職金制度もなくなっていけば、ワーカーの会社に対する帰属意識は弱くなってくるでしょう。
いまは会社のミッションに共感して会社を選び、働いている人が多いと思いますが、これからの時代は優秀な人を集めたチーム作りから仕事が進んでいくと思います。
例えば映画監督は優秀なカメラマンや技術さんなどチームで作品を作っている。映画のエンドロールには全員の名前が出る。どんな仕事をするかではなく誰と仕事をし、どんな成果を作りあげるか。仕事は信頼で成り立っていく時代になっていくと思います。仕事のチームリーダーが、人を集めてチーム作りをした段階で、もう結果は見えていて、あとは信頼しているスタッフに任せるしかないんです。会社の看板というスキルではなく、一人ひとりが持っているスキルがもっと見える社会になっていくと思います。
テレワークを導入すると、社員同士のコミュニケーションを心配する声もありますが?
松村さん:やはり対面のコミュニケーションは重要です。1人で在宅勤務をしていると、気も緩むし、なんといっても寂しくなります。仕事で会うべき人と会い、インスピレーションを得ることは大切ですし、会う場所も会社のオフィスだけでなく、どこでもいいと思うんです。僕はこれを「繋がるテレワーク」と呼んでいます。朝、なんとなく会社に行くのではなく、働く目的に合わせて場所や時間の選択肢があるのはいいことだと思います。
野村不動産が今回、都心だけでなく郊外にサテライトオフィスを展開しているのも時代の流れだと思います。サテライトオフィスを利用する人は、他人の目が欲しいとか、意見交換したいとか、情報共有できたらいいなとか、いろんな思いで来ていると思うんです。喫茶店やカフェを利用せずにサテライトオフィスを使うのは、他者とのつながりを暗に求めているからだと思います。
こうした形のオフィスが広がれば、テレワークを含めた自由な働き方の選択肢も増えていくはずです。野村不動産をはじめとしたサテライトオフィスの運営事業者には「こういう働き方が、これからの時代の働き方なんだ」と推し進めてほしいですね。
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